刑事専門弁護士ジャウの事件簿1

この店のコーヒーはやはり旨いな、時おり立ち寄るコーヒー豆店の二席ばかりのドリンクテーブルで残り少なめとなったコーヒーカップを置きつつ、改めて田所和弘はそう思った。でも少し蘊蓄ると、彼の考えの中にはこんなにコーヒーの量はいらない。それはエスプレッソの量よりは多く、普通のコーヒーカップの量までは行くことのない量でたくさんだ。それはあたかも、盛りそばの嵩があんなに多くなくても程よいのにとの気持ちと共通するものだ。彼は紹介された依頼人志望者を待っていた。自分には依頼人を選ぶ権利がある。自分の評価をどこかで聞いて藁をもすがる気持ちでやってくる男女、だからといってその全てを引き受けていては身が持たない。いわば人物検査はしなくてはならない。情報ではそれは複数の女性が来る予定となっていた。しかしこの場所には残り座席は一つしかない。なにがしかの混乱みたいなものがあるやもしれないが、そこでその時の反応も一つの引き受けの材料になるだろう。そんな気持ちでこの小さなコーヒー豆店を指示したのだった。やがて二人の女性が店の窓の外に姿を表した。こんな小さな店、本当かしらと訝しげな表情が窺えた。二人はそろりと入ってきた。